慶應義塾大学通信の館

試験を受ける

チャンスは年5回

 さて、リポートが提出できたら試験を受けます。試験を受けないと単位がとれません。この試験を科目試験と呼んでいます。
 大学の試験は、ほとんどすべてが論述式です。1時間に1問か2問について、たらたらと書いていきます。これがまたやっかいで、広く浅くテキストをまんべんなく勉強していても、なかなかできません。たとえば、こんな問題が出ます。

違憲審査制について述べよ。(1993年1月、専門科目「憲法」科目試験問題)

 これ一問だけなのです。いくら議院内閣制や憲法9条に詳しくても、違憲審査制について述べられなければ、不合格なのです。かと思うと、つぎのような問題が出ます。

憲法とは何か。説明しなさい。(1993年6月、専門科目「憲法」科目試験問題)

 やはりこれ1問だけなのです。この問題だけで、真っ白なA3の解答用紙のうち、せめて表の3分の2くらいは文字で埋めなければならないのです。
 大変です。大変ですが、楽なところもあります。科目試験は年間5回も受験のチャンスがあります。1月に受けた問題が、たまたまわからなかったら、あきらめて3月にまた受ければ良いのです。不合格であれば、別に成績には残りませんし、次に受けたときにできが良ければ、A評価(最上の評価)も可能です。
 それに科目試験料は年間で決められていて、年額3000円です。毎回目一杯受けようが(1回につき6教科受験可能。)、まったく受けまいが、費用は同じなのです。もちろん目一杯受ける人が少ないから3000円でも成りたっているのですが・・。

試験会場は日本全国

 近年、西日本の私立大学では、入学試験の出前、いわゆる地方試験が一般化しつつあります。地方試験というのは、たとえば京都にある大学が、入学試験のためにわざわざ京都まで受験に来なくても地元の近くの受験会場で受験できるように行う試験のことです。全国から受験生を集めたいのか、それとも受験料を集めたいのか本心はわかりませんが、ちょっとしたブームになっているようです。
 通信教育の科目試験も、これと似た方法をとっています。いくら通信という教育手段をとるおかげで首都圏以外の地方でも勉強が可能だと言っても、年に5回もある科目試験のためにわざわざ東京に出てくる必要があれば、片手おちと言わざるをえません。
 したがって、試験監督のために、大学の教員(教授、助教授、講師など)と通信教育部の職員が、休日出勤および出張手当をもらって東京から全国に散らばるのです。平日は大学で授業、休日まで試験監督に連れ出され、おまけに給料も早稲田より安いのでは、やってられません。というぼやきをある教授から聞いたことがありますが。
 試験会場は、毎回のように変わるので、一概には言えませんが、平成6年1月の会場は、

帯広、函館、弘前、盛岡、福島、東京、長岡、福井、長野、岐阜、浜松、
大阪、姫路、広島、徳島、福岡、熊本、宮崎、那覇

の19箇所でした。ちなみに、最寄りの駅から会場まで100キロを超えてJRに乗車する場合は、乗車券が2割引の学生割引が適用されます。

科目試験はコミュニケーションの場

 科目試験は必ず、土曜日と日曜日の2日間、それぞれ3教科ずつ行われます。学生はそのうち数科目を受験するわけです。
 したがって、たかだか試験監督のためなんかに休日に連れ出された教授の皆さんは、さぞかし御立腹かと思いきや、
「この機会に懇親会などいかがでしょうか」
とお誘いすると喜んでお相手して頂けるのです。
 さすが学生思いの先生がたと言いたいところですが、科目試験の時に、ふだん大学から離れている地方の学生と懇親を深めるために、こうした懇親会の費用が一部大学から負担されます。一部と書きましたが、それは参加する人数によるのであって、人数が少なければ全部ということになります。
 先生がたは、土曜日に1泊2日でいらっしゃいますから、土曜の夜は一般的に言って暇です。かたや学生は日曜日にも試験を受ける場合が多いため、土曜の夜に懇親会(要するに酒を飲むのである。)などやってる場合ではないので、どうしても参加人数が少なくなります。したがって、参加すると自己負担なしに酒が飲めたりします。
 科目試験の2日目は、午前中で試験が終わります。先生がたは早く帰りたいところですが、
「せっかくの機会ですから先生の御専門について私たちでもわかるようにわかりやすく講演して頂けないでしょうか。」
と頼むと、意外な事に引き受けて頂けるのです。
 これも、通信教育部の一つの行事として認められていて、これをやると大学から昼の弁当代が出るのです。しかし、知ってか知らずか、弁当につられてこうした行事に参加する人はさほど多くはないのです。これまた、それゆえに成り立っている制度なのかもしれません。
こうしてみると、人によっては、年間の科目試験料3000円など1回の科目試験で取り返せてしまいます。

慶友会ってなんだ

 通信教育は前にも書いたように、誰からの束縛もなく自由に学習できるシステムでした。確かに自由で素晴らしいのですが、勉強しなくても誰からも何も言われないと、予想以上に勉強しないものだということがわかってきます。たとえ、高校や短大時代に、
「私は勉強熱心だった。」
という人でも、毎日の通学を強制され、また学校へ行ってクラスメイトがいるということが、勉強を継続する上でどれだけありがたいことかわかります。
 大学の通信教育課程でも、そうした面から、「学生間の学習上の啓発を目的として」、全国に「慶友会(けいゆうかい)」という団体を認めています。
 現在95の慶友会が存在し、それぞれ自主的に講演会の開催や、学習会を行っています。
 講演会と言うのは、科目試験の後にたまたま試験監督として来ていた教授に講演をお願いするのとは別に、好きな教授を指定して講師としてお迎えできる制度です。もちろん、講師の交通費・宿泊費・講演費・講演会場費は大学持ちです。
 これは、慶応の教員なら教授、助教授、講師、助手を問わず誰でも指定できるのです。たとえ、テレビに出まくっているタレント教授を指定しても構いません。
 私は、作家の荻野安奈さんの講演を経験しました。彼女は商学部の助手(当時)なので。
テレビではくだらないことを言ってますが、実際は素晴らしいかたでした。
 ちなみに、講演会を計画するときは、講師との懇親会も計画する方がよいでしょう。講師の中には、大学の金で酒を飲みたいと思っているかたもいらっしゃるのです。講演会の時もやはり、講師の分くらいの飲み代は大学から出るのです。あたりまえですが、学生と懇親会をしなければ、お金が出ないのです。

慶友会一覧表

慶應旭川クラブ、札幌慶友会、青森慶友会、秋田慶友会、道南慶友会、青森慶友会、岩手慶友会、山形慶友会、宮城慶友会、福島慶友会、栃木慶友会、茨城慶友会、群馬慶友会、千葉慶友会、東京ポニークラス、池袋慶友会、東京三田クラス、東京もえぎクラス、TOKYO SOCIUS、東京武蔵野クラス、東京多摩クラス、横浜慶友会、湘南慶友会、新潟慶友会下越クラス、富山慶友会、石川慶友会、松本慶友会、岐阜慶友会、静岡慶友会、慶大愛知クラス、三重慶友会、京滋慶友会、大阪慶友会、神戸慶友会、姫路慶友会、岡山慶友会、福山慶友会、広島慶友会、山口慶友会、徳島慶友会、愛媛慶友会、福岡慶友会、佐賀慶友会、長崎慶友会、大分慶友会、鹿児島慶友会、英語読書会、NTT慶友会、慶應通信スペイン語研究会、慶應通信文学会、慶應母親学生会、慶應PRESTIGE、言語・文化研究会、現代英語研究会、社会学ゼミ、民法研究会、フランス語研究会

科目試験の問題を知る

 前にも書いたように、科目試験の問題は1問とか2問しかでないため、ヤマがはずれると解答不能に陥ったりします。書けないのです。
 自分でも何を書いているのかわからなくても、何か書いておけば、たまたま採点者が無精をしていたり、もしくは何かの勘違いで合格点をくれる可能性がでてきます。いや、そういう期待をしたくなります。しかし、何も書かないと合格はありえません。
 したがって、学生は科目試験受験前に、問題の出題傾向を知ろうとします。通学生の場合は、過去の期末試験の問題は業者が販売していたりします。通信のばあいは、業者が乗り出すところまでは行っていませんが、ヤミルートで流れています。
 自分が受けた問題を覚えておいて、他の人のために情報を提供するというのは、違法でも何でもないのですが、科目試験中に問題を写して持って帰るというのは不正行為になります。したがって、過去の試験問題情報というのは、何らかの苦労が伴って集められたものということになり、その情報を手に入れるためには、それなりの人脈が必要になってきます。
 私が、お薦めするのは、「過去の問題など気にするな。」ということです。過去の問題というのは、あくまでも過去の問題です。調べたところで、ほとんど気休め程度にしかならないことが多いのです。なかには、毎回この問題しか出ないという科目もあるようですが、稀なのです。ほとんどの科目は過去の問題など詳細に調べても役に立たないのです。
 それより、科目試験を受けるときに、今後自分が受けそうな科目の試験問題もちらっと見ておく程度でいいのです。その後、内容は忘れても構いません。「こんな感じの問題が出るのかな。」という程度の感想をもてばそれで十分です。どうせその程度の役にしかたたないのですから。

持ち込み可

 大学の勉強が、高校までの暗記を基本とした学習とは異なるということを前に述べました。通信教育課程もこの例外でない事はすでに書いたとおりです。その証拠が科目試験にもあらわれています。それは、テキストや参考書を持ち込んで受験しても良いという科目があることです。
 一般的に、テキスト持ち込み可というと楽なように聞こえます。その通り、楽ちんです。楽ちんではありますが、前もって勉強しなくても良いという事ではありません。持ち込み不可の科目より、採点もきびしいと考えた方が、まともです。
 しかし、持ち込み可能な科目はすすんで選択する事をお薦めします。持ち込み可能な科目は、科目試験の前になると慶應通信に載るため、見逃さない事が大事です。面白い事に、同じ科目でも持ち込み可になったり、持ち込み不可になったりします。そういう科目は、どうせなら科目試験毎にチェックを入れておいて、持ち込み可になったときにすかさず受験すべきです。
 例として1993年11月、一般教育科目のうち持ち込み可とされたのは、次の科目でした。
化学・生物学・社会学・数学・地学・哲学・社会科学概論

良い答案の書き方

 評価を受け易い答案とは、どういう答案でしょうか。それは、一言で言えば、「内容があって、かつ読みやすい答案」でしょう。
 問題に対して、テキストに書かれていることを消化した上で、自分の意見が書かれていれば、言うことはありません。しかし、最低限「日本語になっている」ということが必要です。日本には、日本語になっていない文章がいかに多いことでしょうか。まして、科目試験のばあい、1時間という制限時間のなかで、構想を練り、文章を組み立てていかなければなりませんから、日本語にするだけでもかなり大変なことです。
 自分の意見を書こうとすると、どうしても独りよがりな内容や表現になってしまいがちです。自分ではわかっているつもりでも、他人が読むと何のことか全くわからないということは、良くある話です。自分がなぜ、そういう論旨を展開したのかということを、読む人にもわかるように絶えず気を配る必要があります。
 さらにつけ加えるならば、誤字・脱字に対して採点が厳しい先生が多いということです。とくに法律関係の教授にはその傾向が強いようです。法律の研究者は条文の一字一句に命を賭けて解釈しているため、職業柄そういうふうになるのでしょう。
 せっかくすばらしい内容を書きながら、それを表現する字句のつまらないミスによって減点あるいは不合格になってはたまりません。時間的な制約があって大変ですが、気をつけましょう。
 また、ある教授によれば、良い答案は、

  1. 答案用紙の表いっぱい程度の分量が書いてある。
  2. 起承転結がはっきりしている。

とのことです。参考にしましょう。

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